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東京地方裁判所 昭和50年(ワ)5488号 判決 1982年10月04日

原告 亡蓬田秀吉訴訟承継人 蓬田秀夫

原告 ハルタビル株式会社

右代表者代表取締役 菅井ハル

右原告両名訴訟代理人弁護士 高芝利徳

同 高芝利仁

右原告ハルタビル株式会社訴訟代理人弁護士 真野覚

被告 東京都

右代表者知事 鈴木俊一

右指定代理人 青木隆蔵

〈ほか二名〉

被告 東京電力株式会社

右代表者代表取締役 平岩外四

右訴訟代理人弁護士 小薬正一

右訴訟復代理人弁護士 柏崎正一

被告 横山光弥

右訴訟代理人弁護士 民永清海

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は、原告らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告ら

1  被告東京都、同横山光弥は、各自原告蓬田秀夫に対し、金二二五〇万円及びこれに対する昭和五〇年七月五日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  被告東京電力株式会社、同東京都は、各自原告蓬田秀夫に対し、金二三五万八〇〇〇円及びこれに対する昭和五〇年七月五日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

3  被告東京都、同横山光弥は、各自原告ハルタビル株式会社に対し、金三四〇万円及びこれに対する昭和五〇年七月五日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

4  被告横山光弥は、原告ハルタビル株式会社に対し、金二三〇万円及びこれに対する昭和五〇年七月五日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

5  被告東京電力株式会社、同東京都は、各自原告ハルタビル株式会社に対し、金三四万四〇〇〇円及びこれに対する昭和五〇年七月五日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

6  訴訟費用は、被告らの負担とする。

7  仮執行宣言。

二  被告ら

主文と同旨(なお被告東京都は、担保を条件とする仮執行免脱の宣言)。

第二当事者の主張

一  請求原因

1(一)  原告ハルタビル株式会社(以下「原告会社」という。)は、昭和四八年七月二七日ビルの賃貸分譲を目的として設立され、別紙物件目録(一)記載の建物(以下「本件建物」という。)を建築・所有していたが、現在は、そのうちの同目録(二)記載の建物中(1)の部分(以下「本件建物(1)の部分」という。)を所有している。

(二) 承継前原告蓬田秀吉(以下「亡秀吉」という。)は、昭和四九年六月一八日、原告会社との間に、同社から同目録(二)記載の建物中(2)ないし(8)の部分(以下「本件建物(2)ないし(8)の部分」という。)を代金四九〇〇万円で買い受ける契約を締結したが、原告会社に対し、同年六月一一日、申込金として金三五万円を、同年八月二〇日右売買代金の内金四七〇万円をそれぞれ支払った。また、亡秀吉と原告会社は、同年一〇月一日、右売買契約に関し、次のとおり合意した。

① 亡秀吉は、本件建物につき、原告会社名義で保存登記、抵当権設定登記等をすることを認める。その代わりに本件建物売却のあかつきには、原告会社は亡秀吉からの残代金支払をもって銀行等に一括弁済して各抵当権設定登記等を抹消のうえ、完全な所有権登記を亡秀吉又はその特定承継人に移転する。

② 原告会社は、亡秀吉に対し、本件建物(2)ないし(8)の部分の所有権移転及び引渡をする。

③ 建築基準法の問題は、原告会社が責任をもって解決する。

そして、亡秀吉は、原告会社から、同年一〇月一日、本件建物(2)ないし(8)の部分の引渡し及び所有権の移転を受けた。亡秀吉は、昭和五三年一月一日死亡し、原告蓬田秀夫(以下「原告蓬田」という。)が、亡秀吉の権利義務を承継した。

(三) 前記売買契約が通謀虚偽表示による無効のものであるとの被告東京電力の主張(後記二(被告東京電力)1)及び東京都の主張(後記二(被告東京都)1(二))を否認する。

2(一)  原告会社は、本件建物の建築に当たり、昭和四八年九月頃、被告横山光弥(以下「被告横山」という。)との間で、次のとおり、建築士法二一条に定められた建築に関する法令に基づく手続の代理業務の委任契約を締結した。(なお、右契約を締結したのは、あくまでも原告会社であって、原告会社の代表取締役訴外菅井ハル個人ではない。)

① 被告横山は、本件建物の計画が当該建築物の敷地、構造及び建築設備に関する法律並びにこれに基づく命令及び条例の規定に適合することについて確認の申請書を提出して建築主事の確認を求める。

② 原告会社は、右に対する対価として相当の報酬を支払う。

(二) 被告横山は、前項の委任契約に基づき、昭和四八年一〇月、原告会社の代理人として、東京都建築主事に対し、本件建物に関する建築確認を申請したところ、昭和四九年一月一六日、東京都建築主事西村梅夫により確認番号第七八一号をもって確認された。

(三) 原告会社は、右同日、被告横山に対し、建築確認手続の報酬として、金二四万三〇〇〇円を支払った。

(四) 原告会社は、昭和四八年一一月五日、訴外日本メンテナンス株式会社(以下「日本メンテナンス」という。)との間で、本件建物の建築請負契約を締結し、昭和四九年五月、本件建物が竣工した。

(五) ところが、東京都多摩東部建築指導事務所長(以下同事務所を「本件事務所」といい、同事務所長を「本件事務所長」という。)は、後記3(一)のとおり原告会社に対し、本件建物が建築基準法に違反するものであるとして、昭和四九年一一月二九日、本件建物中違反部分の除却を命じ、昭和五〇年二月二五日から同月二七日までの三日間にわたり、本件建物に対し除却の代執行をなし、一階約四一平方メートル、二階約三一平方メートル、三階約二七平方メートルを残し、その余をすべて除却した。

(六) 右代執行により、本件建物の右の残存部分は、物理的に存在するのみで建物としての価値はなくなり、居住の用に供することもできず、取り壊すほかなくなった。

(七) 被告横山は、二級建築士であり、建築確認事務の処理に当たっては、当該計画建物が、建築基準法・条例その他の法令に照らして違反建築物とされたり、代執行を受ける等により除却されたりして、建築主及び所有者に重大な損失を招来することのないよう注意すべき高度の注意義務を負うものである。しかるに、同被告は、原告会社から手渡された各種図面ほかの書類や原告会社においてなした土地の所有権関係や利用関係、建物建築予定位置等の説明にかかわらず、敷地の利用関係や利用範囲をよく調査せず、委任契約上の義務に違反したため、本件建物は違反建築物として工事施行の停止を命ぜられ、右代執行を受けるに至ったものである。

被告横山が、その主張のように、右委任契約上の義務を果した旨の同被告の主張事実(後記二(被告横山)3)を否認する。

訴外戸塚太郎が、被告横山主張のころ同被告を現地に案内したことはなく、また、同被告に対して、その主張のような説明をしたことはない。なお、高さ制限については、被告横山が本件事務所と相談のうえ一メートル三〇センチメートル堀り下げるようにしたものであり、北側斜線については、被告横山が、北側が水面のため緩和規定が適用されるから大丈夫と説明し、また、被告横山は、建築確認に際し、勝手に原告会社の指図及び実測に反する図面を作成提出したものである。

よって、被告横山は、原告会社に対しては債務不履行に基づき、原告蓬田に対しては不法行為に基づき、原告らの被った次の損害を賠償する義務がある。

(八) 原告らは、右代執行によって、次のとおり、損害を被った。

(1) 原告蓬田の損害

① 本件建物(2)ないし(8)の部分が無価値となったことによる損害 金四七二五万円

8,000,000×7-10,000,000×7/8=47,250,000

((2)ないし(8)の部分の価格)-(底地全体の価格)×7/8

〔一戸当たり底地価格を含め金八〇〇万円として計算する。以下同じ。〕

② 本件建物(2)ないし(8)の部分の取壊し及び後片付けに要する経費 合計金八三四万二〇〇五円

A 本件建物全体についての代執行の後片付費用 金三五六万四〇〇〇円

B 同残存部分除却費用 金五九〇万四〇〇〇円

C 同整地費用 金六万五七二〇円

の合計金九五三万三七二〇円の八分の七

(3,564,000+5,904,000+65,720)×7/8=8,342,005

(2) 原告会社の損害

① 本件建物(1)の部分が無価値となったことによる損害 金六七五万円

8,000,000-10,000,000×1/8=6,750,000

((1)の部分の価格)-(底地全体の価格)×1/8

② 本件建物(1)の部分の取壊し及び後片付けに要する経費 合計金一一九万一七一五円

A 本件建物全体についての代執行の後片付費用 金三五六万四〇〇〇円

B 同残存部分除却費用 金五九〇万四〇〇〇円

C 同整地費用 金六万五七二〇円

の合計金九五三万三七二〇円の八分の一

(3,564,000+5,904,000+65,720)×1/8=1,191,715

③ 本件建物に対する工事施行停止命令により、工事が停滞したための岡安工務店及び小山工業所に対する解約損金 金二六二万三四〇〇円

A 岡安工務店解約損金 金二〇七万三四〇〇円

B 小山工業所解約損金 金五五万円

2,073,400+550,000=2,623,400

3(一)  被告東京都の公権力の行使に当たる公務員である本件事務所長は、本件建物が建築基準法に違反するとして、同法に基づき、昭和四九年三月三〇日、四八多東二第二四三号をもって、訴外菅井ハルに対し工事施行停止を命じ、次いで同年一一月二九日、四九多東二第一二一号をもって、原告会社に対し本件建物中違反部分の除却を命じた。その後、本件事務所長は、昭和五〇年一月二三日、四九多東二第一四八号をもって原告会社に対し、行政代執行法三条一項に基づく戒告をし、同年二月二〇日、四九多東二第一六一号をもって、同法三条二項に基づく代執行をなす旨を代執行令書により原告会社に通知し、同年二月二五日から同月二七日までの三日間にわたり本件建物に対し除却の代執行をなし(以下右の代執行を「本件代執行」という。)、前記残存部分を残し、その余をすべて除却した。

(二) しかし、本件代執行は違法である。

(1) 本件建物には、次のとおり、本件代執行の前提となる建築基準法違反はない。

① 原告会社は、昭和四九年一月一六日、建築主事による建築確認をうけ、右確認は有効に存続しているので、建築基準法六条一項に違反していない。

② 原告会社は、右建築確認に係る敷地(二〇番一六、一七、一八)について、昭和四八年五月三〇日、敷地所有者である訴外田中キミ、同町田安弘及び同菅井ハル(右三名は、兄弟姉妹の関係にあった。)から敷地の使用に関して承諾を得、右承諾は存続しているので、建築基準法五二条一項、五三条一項及び東京都安全条例一九条二号にも違反していない。

③ 本件建物の所在地域は、第一種住居専用地域であり、本件建物の地盤面からの高さは約一〇・五メートルであるが、本件敷地は隣接する土地や道路より低くなっているので、建物完成のときまでにこれを盛土して高さを一〇メートル以内にする計画だったのであるから、建築基準法五八条にも違反するところはない。

(2) 本件事務所長は、亡秀吉からの同事務所長あて昭和五〇年二月二二日到達の内容証明郵便により、本件建物(2)ないし(8)の部分の所有権が本件代執行着手前に亡秀吉に移転していることを知悉していたにもかかわらず、本件建物のうち、除却の対象となっていなかった一部を所有するにすぎない原告会社に対してのみ戒告及び代執行令書による通知を行っただけで、亡秀吉に対しては、建築基準法に基づく是正命令、行政代執行法に基づく戒告、通知の手続をとることなく、本件代執行を実施した。

(3) 仮に、違反建築物につき、それが建築主の所有に属するか否かを問わず、建築主以外の第三者がその所有者である場合にも代執行ができるとしても、建築主である原告会社に対する手続のみにより第三者たる所有者亡秀吉の所有権を侵害することはできない。しかるに、本件事務所長は、本件建物(2)ないし(8)の部分が亡秀吉の所有に属することを知りながら、亡秀吉に対しては、事前に、告知、弁解、防禦の機会を何ら与えることなく、原告会社に対する本件代執行の実施により、亡秀吉の所有権を侵害したものである。

(4) 本件代執行は、次のとおり、行政代執行法上の実体的要件を欠いている。

① まず、本件事務所長は、本件建物の建築基準法違反につき、建ぺい率及び容積率違反をいうが、この点については、本件建物の隣地所有者から空地である隣地の使用許可をうけることにより、本件建物を建築基準法に適合させることが可能であり、原告会社が努力中であって、その旨本件事務所長に伝え、その内諾をうけていた。したがって、「他の手段によってその履行を確保することが困難であること」の要件を欠いている。

② 次に、本件建物は野中の一軒家の如きものであり、厳しく規制する必要性が薄く、これを放置しても公益を害する度合は極めて低い。したがって、「不履行を放置することが著しく公益に反するとき」という要件にも合致しない。

(三) 本件事務所長は、被告東京電力株式会社(以下「被告東京電力」という。)に対し、本件建物について、建築基準法違反であることを理由に、電気供給承諾の保留を要請した。

しかしながら、一般電気事業者が一般需要者からの電気供給申込みに対し、建築基準法違反を理由として、電気の供給を保留することは、電気事業法一八条一項に反し違法であり、したがって、本件事務所長が本件建物を建築基準法違反の建築物として、被告東京電力に対し、本件建物への電気供給申込みに対する承諾の保留を要請したこと自体も違法である。

電気事業者には、電気の供給義務があり、例外的に供給を拒否するにも「正当な理由」がある場合でなければならない。右の「正当な理由」は、電気事業法の目的を達成する観点から判断されるべきで、同法の保護法益以外の目的を達成するための便法として電気供給を保留すべきではない。

したがって、仮に、本件建物が建築基準法違反の建築物であるとしても、同法違反の建築物に対しては同法の目的達成のために必要な範囲内で制裁を加えれば必要、かつ、十分であって、いやしくも便宜、かつ、有効的であるからといって、保護法益を全く異にする電気事業法を発動することは許されない。仮に建築基準法違反が「正当な理由」に該当する場合がありうるとしても、それは本来電気事業法の保護法益ではないのであるから、慎重に考えることが必要である。

ところで昭和四六年一月二九日付四六公局第二七号通商産業省公益事業局長通達は、次の四要件のすべてに該当する場合には、特定行政庁は、電気事業者に対して、電気供給の承諾を保留するよう要請することができるとし、本件事務所長は、本件が右の四要件のすべてに該当するとして、被告東京電力に対して、本件建物への電気の供給承諾を保留するよう要請したものである。

① 特定行政庁または建築監視員が当該建築物について建築主等に対し、建築基準法九条に規定する工事の施工の停止または当該建築物の除却、移転もしくは使用禁止を命じ、かつ、電気の利用の申込みの承諾を保留するよう電気事業者に要請している旨を電気の使用の申込みの承諾前に当該建築物の建築主及び工事施工者に対して確実な方法により通知していること。

② 特定行政庁が電気の使用の申込みの承諾前に当該建築物が建築基準法の規定に違反しているため、当該申込みの承諾を保留するよう電気事業者に公文書により理由を付して要請していること。

③ 当該建築物が建築基準法の規定に違反しているため、特定行政庁が電気の使用の申込みの承諾を保留するよう電気事業者に要請している旨を当該建築物の見易い個所に掲示してあること。

④ 電気事業者が特定行政庁の要請を受けた時点において、当該建築物が現に居住の用に供されていないこと。

しかし、通達は、法律に反しない限りにおいてしか効力をもちえず、行政行為が合法であるか否かは、法令に従って判断されるべきであって、通達の存在ないし通達の内容によって左右されるものではない。本件建物への電気供給申込みに対する被告東京都の承諾保留要請の合法、非合法の判断は、電気事業法等の法令に基づき判断されるべきで、被告東京都主張の通達の存否ないし内容に左右されるべきものではない。

しかも本件においては、右の四要件は満たされていない。

すなわち、①の要件に関しては、被告東京都は、電気の利用申込みの承諾を事業者に保留するよう要請している旨を、本件建物の建築主である原告会社にも訴外菅井ハルにも、また、工事施工者日本メンテナンスにも通知していない、③の要件に関しては、被告東京都は、電気事業者に承諾保留の要請をしている旨を本件建物の見やすい場所に掲示していない、また、④の要件に関しては、電気事業者が前記要請を受けた時点において、本件建物は現に居住の用に供されていたので、現に居住の用に供されていないという要件を欠いていた。

(四) 原告らは、本件事務所長の違法な代執行及びその承諾保留要請により、次のとおり、損害を被った。

(1) 違法な代執行による損害

(イ) 原告蓬田の損害

① 本件建物(2)ないし(8)の部分の喪失に伴う損害 合計金四七二五万円

8,000,000×7-10,000,000×7/8=47,250,000

((2)ないし(8)の部分の価格)-(底地全体の価格)×7/8

② 右部分の取壊し及び後片付けに要する経費 合計金八三四万二〇〇五円

A 本件建物全体についての代執行の後片付費用 金三五六万四〇〇〇円

B 同残存部分除却費用 金五九〇万四〇〇〇円

C 同整地費用 金六万五七二〇円

の合計金九五三万三七二〇円の八分の七

(3,564,000+5,904,000+65,720)×7/8=8,342,005

(ロ) 原告会社の損害

①本件建物(1)の部分の喪失に伴う損害 金六七五万円

8,000,000-10,000,000×1/8=6,750,000

((1)の部分の価格)-(底地全体の価格)×1/8

② 右部分の取壊し及び後片付けに要する経費 金一一九万一七一五円

(3,564,000+5,904,000+65,720)×1/8=1,191,715

A 本件建物全体についての代執行の後片付費用 金三五六万四〇〇〇円

B 同残存部分除却費用 金五九〇万四〇〇〇円

C 同整地費用 金六万五七二〇円

の合計金九五三万三七二〇円の八分の一

(2) 違法な承諾保留要請による損害

(イ) 原告蓬田の損害

本件建物(2)ないし(8)の部分を昭和四九年七月二〇日から同五〇年二月二〇日までの間使用することができなかったことによる、右期間中の賃料相当額 金二〇五万八〇〇〇円

42,000(1か月1戸あたり)(円)×7(月)×7(戸)=2,058,000(円)

(ロ) 原告会社の損害

本件建物(1)の部分を、昭和四九年七月二〇日から同五〇年二月二〇日まで使用することができなかったことによる賃料相当額 金二九万四〇〇〇円

42,000(1か月1戸あたり)(円)×7(月)×1(戸)=294,000(円)

(五) そして被告東京都は、建築基準法により、同法九条等の権限を機関委任せられた特定行政庁たる東京都知事からの委任を受けてその事務を管理執行する本件事務所長を選任監督し、かつ、給与その他の費用を負担する地方公共団体であるから、国家賠償法三条一項の規定により、原告らの被った損害を賠償する責に任ずるものである。

4(一)  電気事業法一八条一項によれば、一般電気事業者は、正当な理由がなければ、その供給区域における一般の需要に応ずる電気の供給を拒んではならないと規定されており、同法一九条は、一般電気事業者が電気を供給する場合に、電気の料金その他の供給条件について供給規程を定め、通商産業大臣の認可を受けなければならない、としているのであるから、右の供給規程に基づき、電気供給の申込みがあれば、事業者の承諾の意思表示がなくても当然に承諾があったものと擬制されて需給契約が成立する。被告東京電力は、右契約に基づき、原告らに対して、電気供給の義務を負うものである。

仮に同条項が、一般公法上の義務にすぎず、私法上の義務を約束するものではないとしても、右条項を受けた被告東京電力制定に係る電気供給規程は、附合約款であり、その43は法令、電気の需給状況、供給設備の状況その他によってやむをえない場合を除き、被告東京電力に諾否の自由を認めず、私法上の電気供給義務を定めており、これと、電気事業の公益性及び電気事業法一八条一項の規定の趣旨を併わせ考えれば、右電気供給規程の定めは申込みにほかならない(申込みの誘引に止まるものではない。)から、需要家の申込みにより、当然に電気需給契約が成立するものである。仮に右電気供給規程の申込みの誘引にすぎないものとしても、需要家の申込みがあれば、承諾が擬制され、需給契約が成立したものとみなされるのであって、いずれにせよ、被告東京電力は、右契約に基づき、申込者に対して、電気供給義務を負うものである。

(二) ところで、亡秀吉は、昭和四九年七月四日及び同年八月二日、被告東京電力に対し、本件建物の電灯外線引込みを申し込んだので、これによって亡秀吉と同被告との間に電気供給契約が成立したものである。しかるに、同被告は、電気の供給義務を履行しない。

(三) 被告東京電力の電気供給保留は、以下に述べるとおり、違法である。

同被告が、本件建物への電気供給の申込みに対し承諾を保留して電気の供給を拒否したのは、被告東京電力が、本件事務所長から電気供給の承諾保留の要請を受けたことに基づいている。しかしながら、一般電気事業者である被告東京電力において電気の供給を例外的に拒否できるのは、前記の正当な理由がある場合でなければならず、この正当な理由は、電気事業法一条の目的を達成する観点から判断されるべきであり、仮に本件建物が建築基準法違反の建築物であったとしても、これに対しては同法の目的達成のために必要な範囲内で同法所定の制裁を加えれば必要、かつ、十分であって、いやしくも便宜、かつ、有効的であることを理由として保護法益を全く異にする別の法律を発動することがあってはならない。そもそも建築基準法違反を理由として、健康で文化的な生活に必要不可欠なエネルギーである電気の供給保留という制裁を科すること自体違法といわなければならない。

また、本件事務所長の被告東京電力に対する右の承諾保留の要請は、前記通商産業省公益事業局長の通達に基づくものであるが、行政上の通達は、法規の性質を持つものではなく、上級行政機関が関係下級行政機関及びその職員に対し、その職務権限の行使につき指揮し、職務に関して命令するために発するもので、行政組織の内部規範であり、直接国民に対して効力を生じないのが原則である。したがって、昭和四六年一月二九日付四六公局第二七号をもって通商産業省公益事業局長から被告東京電力あてに発せられた文書は、行政組織外の私人に対し協力を要請した「お願い」の文書にすぎないのであって、下級行政機関に対する内部的指揮命令たる本来の意味での通達とはその性質を異にする。電気事業者は、電気事業法に基づく通商産業大臣の監督にしたがうべき法律上の義務があるが、本件の如き協力要請(いわゆる行政指導)に従うか否かは、被告東京電力の自由な判断に任されている。いわゆる行政指導に法的拘束力はない。

行政指導に法的拘束力がない以上、被告東京電力は、自由な意思によって本件建物に電気を供給しなかったのである。したがって、被告東京電力は、債務不履行の責を免れえない。

(四) 原告らは、被告東京電力の電気供給保留により、次のとおり、損害を被った。

(1) 原告蓬田の損害

電気が本件建物(2)ないし(8)の部分に供給されなかったことにより、右部分を昭和四九年七月二〇日から同五〇年二月二〇日まで使用することができなかったため、その間の賃料相当額 金二〇五万八〇〇〇円

42,000(1か月1戸あたり)(円)×7(月)×7(戸)=2,058,000(円)

(2) 原告会社の損害

本件建物(1)の部分について、(1)と同様の理由に基づき算出された損害 金二九万四〇〇〇円

42,000(1か月1戸あたり)(円)×7(月)×7(戸)=294,000(円)

5  以上のとおり、(一)亡秀吉は、①被告横山、同東京都の各自に対し、金五五五九万二〇〇五円、②被告東京都、同東京電力の各自に対し金二〇五万八〇〇〇円の各損害賠償の請求を、(二)原告会社は、①被告横山、同東京都の各自に対し、金七九四万一七一五円、②被告横山に対し、金二六二万三四〇〇円、③被告東京都、同東京電力の各自に対し、金二九万四〇〇〇円の各損害賠償の請求をなし得るのであるが、被告らはいずれも任意にこれを支払わないので、亡秀吉及び原告会社は、弁護士である原告ら訴訟代理人に、次のとおり本件訴訟の提起及び追行を委任し、次のとおりそれぞれの請求額に対し、それぞれの報酬を支払うことを約した。

(一) 亡秀吉

① 前記(一)①につき金二一〇〇万円を請求することとし、報酬は金一五〇万円とする。

② 前記(一)②につき金二〇五万八〇〇〇円を請求することとし、報酬は金三〇万円とする。

(二) 原告会社

① 前記(二)①につき金三〇〇万円を請求することとし、報酬は金四〇万円とする。

② 前記(二)②につき金二〇〇万円を請求することとし、報酬は金三〇万円とする。

③ 前記(二)③につき金二九万四〇〇〇円を請求することとし、報酬は金五万円とする。

6  よって、(一)原告蓬田は、被告横山及び同東京都の各自に対し、A前項(一)①の損害額金二一〇〇万円及び右(一)①の弁護士報酬額金一五〇万円の連帯支払、被告東京都及び同東京電力に対し、B前項(一)②の損害額金二〇五万八〇〇〇円及び右(一)②の弁護士報酬額金三〇万円の連帯支払を求め、(二)原告会社は、被告横山、同東京都の各自に対し、C前項(二)①の損害額金三〇〇万円及び右(二)①の弁護士報酬額金四〇万円の連帯支払を求め、被告横山に対し、D前項(二)②の損害額金二〇〇万円及び右(二)②の弁護士報酬額金三〇万円の支払を求め、被告東京都、同東京電力の各自に対し、E前項(二)③の損害額金二九万四〇〇〇円及び右(二)③の弁護士報酬額金五万円の連帯支払を求めるべく、原告蓬田は、被告横山に対しては不法行為を理由とする、被告東京都に対しては国家賠償法による、被告東京電力に対しては債務不履行を理由とする、また、原告会社は被告横山に対しては債務不履行を理由とする、被告東京都に対しては国家賠償法による、被告東京電力に対しては債務不履行を理由とする各損害賠償として、その請求をすることとし、(一)原告蓬田は、被告東京都、同横山の両名各自に対し、各金二二五〇万円及びこれに対する本件訴状が同被告らに対しそれぞれ送達された日の翌日である昭和五〇年七月五日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による各遅延損害金の支払を求め、被告東京都、同東京電力の両名各自に対し、各金二三五万八〇〇〇円及びこれに対する本件訴状が同被告らに対しそれぞれ送達された日の翌日である昭和五〇年七月五日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による各遅延損害金の支払を求め、(二)原告会社は、被告横山、同東京都の両名各自に対し、金三四〇万円及びこれに対する本件訴状が同被告らに対しそれぞれ送達された日の翌日である昭和五〇年七月五日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による各遅延損害金の支払を求め、(三)被告横山に対し、金二三〇万円及びこれに対する本件訴状が同被告に対し送達された日の翌日である昭和五〇年七月五日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求め、被告東京都、同東京電力の両名各自に対し、各金三四万四〇〇〇円及びこれに対する本件訴状が同被告らに対しそれぞれ送達された日の翌日である昭和五〇年七月五日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による各遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する被告らの答弁及び主張

(被告東京都)

1(一) 請求原因第1項(一)のうち、原告会社が昭和四八年七月二七日設立され、設立後本件建物を建築し、本件建物(1)の部分を所有していることは認める。同項(二)のうち、原告蓬田が亡秀吉の権利義務を承継したことは不知、その余は否認する。

(二) 亡秀吉は、本件建物(2)ないし(8)の部分につき所有権を有しない。

原告会社と亡秀吉は、本件建物(2)ないし(8)の物件について、昭和四九年六月一八日付売買契約を締結する際、当時本件建物に対し、本件事務所長より建築基準法違反を理由としてなされていた違反是正命令の鉾先をかわすため、両者いずれにも、本件物件を売買する意思がないのに、その意思があるもののように仮装することを合意したものである。

すなわち右売買契約は通謀による虚偽表示であるから無効である。

2 請求原因第2項(二)のうち被告横山が原告会社の代理人として、本件建物に関する建築確認を申請したことは否認し、その余は認める。被告横山は、訴外菅井ハルの代理人として建築確認申請をしたものである。同項(四)の事実のうち、昭和四九年五月に本件建物が竣工したことは否認し、その余は認める。本件建物竣工の時期は、昭和四九年八月上旬である。同項(五)は認める。ただし二階の残存部分は、約三二平方メートルである。同項(六)は否認する。(同項(一)、(三)、(七)及び(八)については認否をしなかった。)

3 請求原因第3項(一)は認める。同項(二)の冒頭の主張は争う。同(1)①のうち、原告会社が、その主張の建築確認を受け、右確認が有効に存在していることは否認する。(なお、訴外菅井ハル申請に係る建築確認は、取り消されていない。)主張の趣旨は争う。同項(二)(1)②のうち、建築確認に係る敷地が二〇番一六、一七、一八であることは否認する。右敷地の位置は東村山市野口町三の二〇である。その余は不知、主張の趣旨は争う。同項(二)(1)③のうち、本件建物の地盤面からの高さが約一〇・五メートルであることは認め(正確には約一〇・六メートルである。)、本件建築物の接する敷地の地盤面が隣接土地より低くなっていることは否認し、その余は不知、主張の趣旨は争う。

昭和四九年四月から五月のころにおける本件建物の建築基準法等違反の状況は次のとおりであり、本件建物は建築基準法に違反する建物であった。

① 建ぺい率制限違反(建築基準法五三条一項違反)

本件建物の敷地を含む地域一帯は、建ぺい率三〇パーセント(本件建物にあっては、四九・三平方メートル)を超えてはならない第一種住居専用地域に指定されているが、現況は、約四〇・五パーセント(約六六・五平方メートル)であって、約一〇・五パーセント(約一七・二平方メートル)の超過である。

② 容積率制限違反(建築基準法五二条一項違反)

容積率は六〇パーセント(本件建物にあっては、九八・六平方メートル)以下と指定されているところ、現況は約一三二・二パーセント(約二一七・二平方メートル)であって、約七二・二パーセント(約一一八・六平方メートル)の超過である。

③ 建築物の絶対高さ制限違反(建築基準法五五条一項違反)

第一種住居専用地域内においては、建築物の高さは一〇メートルを超えてはならないところ、現況は約一〇・六メートルであって、約〇・六メートルの超過である。

④ 道路からの高度斜線制限違反(建築基準法五六条一項違反)

第一種住居専用地域内においては、建築物の各部分の高さは、当該部分から前面道路の反対側の境界線までの水平距離に一・二五を乗じて得た数値(本件建築物にあっては、約八・九メートル)以下でなければならないところ、現況は約一〇・六メートルであって、約一・七メートルの超過である。

⑤ 北側からの高度斜線制限違反(建築基準法五八条違反)

本件建物の敷地は、第一種住居専用地域内にあり、かつ、第一種高度地区に指定されているので、建築物の各部分の高さは、当該部分から隣地の境界線までの真北方向の水平距離の〇・六倍に五メートルを加えたもの(本件建物にあっては、約六・六メートル)以下でなければならないところ、現況は約一〇・六メートルであって、約四メートルの超過である。

⑥ 窓先空地の巾員不足(東京都建築安全条例(昭和二五年都条例八九号)一九条二号違反)

本件建物は、共同住宅で、しかもその床面積の合計は約二一七・二〇平方メートルであるから、巾員二メートル以上の窓先空地を設けなければならないところ、現況は約一・六五メートルであって、約〇・三五メートルの不足である。

⑦ 工事監理者の不設置(建築基準法五条の二第二項違反)

本件建物の工事施行に当たっては、建築主は工事監理者を定めることが義務付けられているにもかかわらず、実際にはこれが定められていなかった。

⑧ 未確認建築物(建築基準法六条一項及び同五項違反)

前記①ないし⑥の違反内容からみて、本件建物は、確認をうけた建物とは著しく異るので、あらためて事前に確認申請をして建築確認をうけなければならないところ、これらの手続は履践されていない。

同項(二)(2)のうち、本件事務所長が本件建物(2)ないし(8)の部分の所有権が本件代執行着手前に亡秀吉に移転していることを知悉していたこと、原告会社が本件建物のうち除却の対象となっていなかった一部を所有するにすぎなかったことは否認し、その余は認める。なお、本件建物の所有権登記の登記名義は、昭和四九年九月一七日現在原告会社にあり、その敷地の所有権登記名義も同年一〇月一二日現在原告会社にあったのであるから、仮りに原告ら主張のように、昭和四九年一〇月一日以降の本件建物の登記簿及び敷地の登記簿上の権利関係が実体関係と一致しないとしても、亡秀吉は、前記1(二)のように、原告会社がそのような仮装登記を作出しているのを知りながら、これを承認ないし通謀し、真実の権利状態に更正できるにもかかわらずこれを存続せしめ放置していたため、本件事務所長をして、右の外観を信頼させる状況にあったものであるが、更に本件事務所長は、登記の推定力をくつがえすに足りる事実の有無を精査した。しかしかかる事実は存在しなかったので、本件事務所長は、本件代執行の当時、本件建物の所有権が原告会社にあるものと判断したのである。したがって、本件建物につき処分権を有しない亡秀吉に対して、代執行のための所要手続をとらなかったとしても、違法ではない。

同項(二)の(3)及び(4)はいずれも否認する。

なお、本件除却命令の代執行は、建築基準法九条一二項の規定に基づくものであって、行政代執行法二条の実体的要件についての具体的判断は必要でない。

すなわち本件建物には、前記3①ないし⑧の建築基準法等に違反する点があったので、工事施行の段階において同法違反を発見した本件事務所長は、建築主である訴外菅井ハルらに対して、これを理由に是正のための行政指導を行い、口頭又は文書をもって工事施行停止命令を発したが訴外菅井らはこれに従わず違反建築等の状態のまま本件建物を完成させたのである。そこで本件事務所長は、その所有者である原告会社に対して、昭和四九年一月二九日建築基準法九条一項の規定に基づき同五〇年一月一四日までに当該違反部分の除却の是正命令を発したが、所定の期限を経過しても何ら除却の是正措置がとられず放置されていたため、本件事務所長は、同法九条一二項の「履行しないとき」に該当すると判断し、行政代執行法の手続に従い、本件代執行に及んだものである。

ちなみに、「他の手段によってその履行を確保することが困難であること」の要件についての原告の主張は、次のとおり失当である。

すなわち原告らの主張する空地である隣地の使用許可は、それにより建ぺい率及び容積率違反の点を解消することができるとしても、本件事務所長による除却の是正命令それ自体について、除去の履行に代わる「他の手段」たり得ないばかりでなく、原告会社の努力のみに係るものではないのである(隣地の所有者の意思いかんに係るものである。)から、このような実現が確実に期待し得ない方法は、代執行に代る「他の手段」とはいい得ないのである(しかも隣地所有者は、当時原告会社の希望には応じられない旨を確定的に表明していたのであって、原告らの主張する隣地の使用許可は実現不可能であった。)。

そのうえ、仮に隣地所有者の使用許可が得られたとしても、他の建築基準法等の違反が解消されるわけではないし、本件事務所長は、原告会社に対し、本件除却の是正命令については四一日間の、また本件戒告については一九日間の履行期限を与えたのに、原告会社は任意に是正の措置をとらずに放置していたのであって、本件除却の是正命令は「他の手段により履行を確保することが困難」であったのである。

更に「その不履行を放置することが著しく公益に反するとき」の要件についての原告の主張も、次のとおり失当である。

本件建築物の敷地を含む附近一帯は、東京都東村山市都市計画において第一種住居専用地域として計画決定されており、現に低層住宅地域として開発されつつあるが、本件建物の前記実体的違反(建ぺい率の制限超過、容積率の制限超過、建築物の絶対高さの制限超過、北側高度斜線の制限超過、道路からの高度斜線制限超過)は、重大、かつ、悪質であってかかる違反のある本件建物をそのまま放置しておくことは、本件地域における良好な住宅環境を著しく破壊するばかりでなく、将来にわたり、全体としての都市計画の実現をも困難にするおそれが多分にあると認められ、「不履行を放置することが著しく公益に反するとき」という要件に該当したのである。

同項(三)のうち、本件事務所長が、本件は、昭和四六年一月二九日付四六公局第二七号通商産業省公益事業局長通達における原告主張の四要件のすべてに該当するとして、被告東京電力に対して、本件建物への電気の供給承諾の保留を要請したことは認め、その余は否認する。ただし、訴外菅井ハルあて工事施工停止命令書及び訴外日本メンテナンスあて工事施工停止命令書に、電気供給の承諾保留要請をした旨の記載はなされていないが、右の旨を訴外菅井ハル及び同日本メンテナンスに通知したことは、後記のとおりである。

被告東京都の被告東京電力に対する右承諾保留要請は、何ら違法なものではない。

本件事務所長は、昭和四六年一月二九日付建設省住指発第四二号をもって建設省住宅局長から東京都知事宛に発せられた「違反建築物に対する電気等の供給保留について」と題する通達(以下「都知事宛建設省住宅局長通達」ともいう。)にしたがい、被告東京電力に対し、四回にわたり、本件建物への電気供給申込みに対する承諾保留を要請したものであるが、右通達による指示は、上級行政庁たる建設大臣が下級行政庁たる都知事に対して行う指揮、監督であり、かつ、その内容も法的に有効なものであるので、本件事務所長が右通達にしたがって承諾保留要請をしたことには、次にのべるとおり、何ら違法の点はない。すなわち、

特定行政庁たる東京都知事は、建築基準法令において特定行政庁の事務と定められた事務を国の機関として処理するものである。したがって、都知事は、右の事務処理については、建築基準法令施行事務についての主務大臣である建設大臣の指揮、監督を受ける立場にある。

前記都知事宛建設省住宅局長通達は、建設大臣が違反建築物の規制について、下級行政庁たる都知事に対し指揮、監督を行ったものであって、都知事は、それが無効でない限り、右通達の拘束を受けるものである。また、特定行政庁たる都知事の権限を委任された本件事務所長も右通達の拘束を受ける。

電気事業法一八条一項は「正当な理由」のある場合には、電気事業者において承諾を保留することができるものとしている。そこで右にいう「正当な理由」がある場合を、違反建築物への電気供給申込みに対する承諾保留について考えるに、一般に、電気事業法一八条一項に定める「正当な理由」があるか否かは、右承諾保留が一般需要者の利益を制限するだけの合理的理由に基づくものであるか否かによって決せられるべきものであるが、違反建築物の規制という重大な公益目的達成のために電気事業法を適用することは、そのことによって電気事業法本来の目的達成を妨げない限り、同法一八条一項の趣旨からみて不当なことではない。しかし、同法が違反建築物の規制を本来の目的として予想しておらず、違反建築物規制実施のための具体的な手続を定めた規制も設けられていないので、電気事業者が違反建築物への電気供給を拒否する前提として必要な違反事実の認定については、電気事業者がこれを行うことは不可能であるから、建築指導にあたる行政機関がこれを行い、これに基づいて電気供給拒否が決せられなければならない。また、一般需要者も違反建築物であるとの理由で電気供給を拒否されることは必ずしもこれを予想していないとみられるから、電気供給の拒否にあたっては、これらの者に不測の損害を与えないよう一定の配慮が必要である。したがって、右の点について適当な措置を講じたうえで、違反建築物規制のために電気供給の拒否をすることには、一般需要者の利益を制限するだけの合理的理由があるというべきであり、電気供給拒否は電気事業法本来の法目的達成を妨げるものではなく、同法一八条一項の「正当な理由」ある場合に該当する。そこで、本件承諾保留措置の根拠となった前記通達の四要件について検討すると、違反事実の認定については、要件(1)において、特定行政庁又は建築監視員が当該建築物について建築基準法九条に規定する是正措置を講ずることになっており、要件(2)において、特定行政庁が当該建築物が法に違反していることを明らかにして電気事業者に要請することになっていること、また一般需要者に対する配慮については、要件(1)において、電気事業者に承諾保留を要請している旨を建築主及び工事施工者に対し確実な方法により通知することになっていること、要件(3)において、承諾保留している旨を当該建築物の見やすい個所に掲示して建築主、工事施工者以外の者に対しても電気供給停止の危険について周知させ、第三者が不測の損害を被ることのないよう配慮していること、要件(4)において、当該建築物が現に人の居住の用に供されていないことを確認すべきこととしていることから、建築主、工事施工者及びそれ以外の第三者の権利を不当に侵害しないよう十分な方策を講じていることが明らかである。したがって、前記通達の内容は有効であって、これに基づき承諾を保留することは、電気事業法一八条一項にいう「正当な理由」がある場合に該当する。それ故、後記事実関係のもとに、右通達に基づき、本件事務所長が、被告東京電力に対して承諾保留を要請したことに違法はない。

本件建物に対する電気供給申込みに対する承諾保留は、次の①ないし④のとおり、原告ら主張の四要件をみたしている。

① 本件事務所長は、昭和四九年三月三〇日、さきに建築確認をうけた建築主菅井ハル及び工事施工者岡安義昭に対し、工事施工停止を命じ、同年六月一八日右岡安に代った工事施工者訴外日本メンテナンスに対し、工事施工停止を命じ、同年一二月二一日及び昭和五〇年一月二一日、原告会社に対し、使用禁止を命じた。他方、本件事務所長は、昭和四九年五月二九日、建築主菅井ハルの代理人兼工事施工者訴外日本メンテナンスの代表取締役戸塚太郎に対し、電気の利用の申込みの承諾を保留するよう被告東京電力に要請している旨口頭で伝え、昭和四九年五月二九日から同年八月一日まで六回にわたり、本件建物の東側面に右趣旨の公告標識を掲示し、同年八月二二日、菅井ハルに対し、右趣旨を文書で通知した。

② 本件事務所長は、昭和四九年五月二九日、同年八月二八日、同年一一月二九日及び同五〇年一月二七日の四回にわたり、被告東京電力に対し、本件建物が建築基準法の規定に違反しているため、電気使用の申込みの承諾を保留するよう、公文書により、理由を付して要請した。

③ 本件事務所長は、昭和四九年五月二九日から同年八月一日まで、前後六回にわたり、工事施工停止命令と共に、電気の供給を保留するよう電気事業者に通知した旨の記載がある公告標識を本件建物の東側面に掲示した。

④ 昭和四九年五月二九日以後、本件建物は居住の用に供されていなかった。

同項(四)は否認する。

同項(五)については認否をしなかった。

4 請求原因第4項については認否をしなかった。

5 請求原因第5項のうち、被告東京都が原告ら主張の支払をしないことは認めるが、その余は不知。

6 請求原因第6項の主張は争う。

(被告東京電力)

1 請求原因第1項は不知。なお、仮りに原告ら主張の売買契約が認められるとしても、右売買契約は、被告東京都主張のとおり、通謀虚偽表示により無効である。

2 請求原因第2項(二)及び(四)のうち、被告横山が原告会社の代理人として、原告ら主張の建築確認の申請をし、その主張のように確認がなされたこと及び本件建物が昭和四九年五月に至って竣工したことは、いずれも否認し、その余は不知。原告ら主張の確認申請をし受理されたのは、原告会社ではなく、訴外菅井ハルであり、確認がなされたのも同人に対してである。

同第2項の(一)、(三)、(五)ないし(八)については認否をしなかった。

3 請求原因第3項については認否をしなかった。

4 請求原因第4項の(一)のうち、電気事業法一八条一項が一般電気事業者の供給義務について定めていること、電気事業法一九条が、一般電気事業者は、電気の料金その他の供給条件について供給規程を定め、通商産業大臣の認可を受けなければならない旨を規定していること、電気供給規程が附合約款であることは認め、その余の事実は否認する。

電気需給契約は、需要家が電気供給規程を承認のうえ申し込み、電気事業者がこれを承諾することによって成立するものである。需要家が申込みをしさえすれば、電気事業者の承諾をまたず当然に、需給契約が成立するものではない。

同項(二)のうち、被告東京電力に対し、昭和四九年八月二日(七月四日ではない。)需給契約の申込みがなされた(申込名義人は亡秀吉ではなく「ハルタマンション」である。)こと、被告東京電力が原告らに対し、電気の供給をしていないことを認め、その余は否認する。原告らと被告東京電力との間には需給契約は成立していない。

同項(三)のうち、被告東京電力による本件建物への電気供給拒否の理由が、本件事務所長より電気供給の承諾保留の要請を受けたことに基づくことは認め、その余は否認する。

(1) 被告東京電力の承諾保留は正当である。

被告東京電力が本件事務所長からの電気供給保留の要請に基づいて、本件建物への電気供給の申込みに対する承諾を保留し、電気の供給をしなかったのは、電気供給規程43の「やむをえない場合」に該当し、また、電気事業法一八条一項の「正当な理由」があると判断したことによるものであり、本件承諾保留には正当な理由がある。

また、原告らは、違反建築物の取締りのために電気を供給しないという手段をとってはならないと主張するが、その理由とするところは、電気事業法一八条一項の「正当な理由」の有無は、同法一条の企図する行政目的のみにしたがって判断し、他の行政目的を顧慮してはならないという全く形式的な理由にすぎない。ある行政目的をより効果的に達成するため、他の行政目的の実現を、これとの関連において妥当な範囲で譲歩し、差し控えることは全体として社会生活上の向上、発展に寄与するかぎり、少しも不当なことではない。したがって電気事業法一条の目的に直接関連がなくても、電気供給の申込みに応じて電気を供給することが申込者の著しい違法行為を助長する等公共の利益に反する結果を惹起するような場合には、供給を拒絶することにより善意の関係者に不測の不利益を与えることのないよう慎重な配慮がなされているかぎり、供給を拒むにつき「正当な理由」があるものと解すべきである。本件の場合、一方で違反建築物の取締りのため、電気事業者が電気等の供給承諾を保留するについて、関係官庁間であらかじめ覚書、通達等により周到な行政措置が講ぜられ、これに基づいて監督官庁から電気事業者等に対し協力が要請され、かつ、右承諾保留に際しては、違反建築物に電気等を供給しないことにより、関係者に不測の不利益を与えることのないよう、原告ら主張のとおりの厳重な四要件を定めて、そのすべてに該当する場合に限って承諾保留をなしうるとされていたのであり、他方本件建物については、再三工事停止命令が発せられていたにもかかわらずこれを無視し、何ら違反是正もなされないまま、電気の供給を受けて居住を可能にしたうえ、他に分譲するなどして、本件事務所長による違反是正措置を無に帰せしめようと企図されていたものであり、かかる場合に被告東京電力が前記監督官庁からの協力要請に応じて、申込みに対する承諾を保留したことは、まさに電気事業法一八条一項の「正当な理由」に該当するものというべきである。

(2) 仮に、本件承諾保留が電気事業法一八条一項の「正当な理由」に当たらず、したがって、電気供給規程43の「やむをえない場合」に当たらないとしても、被告東京電力が本件建物に電気を供給しなかったことについては、以下に述べるとおり、責に帰すべき事由はなかった。

東京通商産業局長は、昭和四六年三月一五日、四六東産公第一五九二号をもって、被告東京電力に対し、通商産業省公益事業局長から各通商産業局長宛昭和四六年一月二九日付四六公局第二七号の通達に基づく違反建築物への電気供給承諾の保留については、電気供給規程の承諾の限界の通商産業大臣の承認を包括的に行ったものとし、個別の承認をうけることは必要ないものとされた旨を通知した。右通知により、右通達に基づいて実施される承諾の保留については、電気事業法一八条一項の「正当な理由」があり、電気供給規程43の「やむをえない場合」に該当するとの解釈が、まず通商産業省公益事業局長から東京通商産業局長に対し、「通達」をもって示され、次いで、右通達に基づいて、同局長から被告東京電力に対し、同旨の解釈が示されたことになる。

電気事業者は、通商産業大臣より事業の許可を受け、電気供給規程の認可、工事計画の認可その他各種の認可を受け、業務方法の改善命令、技術基準適合命令その他各種の命令を受け、毎年業務及び経理の監査に服するものであって、主務官庁である通商産業省の強力な監督を受ける立場にある。

右のような立場にある被告東京電力が、電気の申込みに承諾を与えるか否かという、供給業務に直接かかわる電気事業法一八条一項の「正当な理由」及び電気供給規程43の「やむをえない場合」の解釈について、通商産業省公益事業局長及び東京通商産業局長の解釈にしたがうことは当然のことであって、被告東京電力が右通達を無視して申込みを承諾するなど、同通達が明らかに不当なものであれば格別、そうでない限り、これと別異の解釈をなすことを期待するのは不可能を強いるに等しい。

同項(四)は否認する。

5 請求原因第5項のうち、被告東京電力が、原告ら主張の支払をしないことは認めるがその余は否認する。

6 請求原因第6項の主張を争う。

(被告横山)

1 請求原因第1項は不知。

2 請求原因第2項の(一)のうち、被告横山が原告会社との間にその主張のような委任契約を締結したことは否認する。右委任契約の相手方は、訴外菅井ハルであり、訴外戸塚太郎がその代理人となったものである。その余は認める。同項(二)のうち、被告横山が原告会社の代理人として、原告ら主張の建築確認の申請をし、その主張のように確認がなされたことは否認し、その余は認める。同被告は、訴外菅井ハルの代理人として確認申請をし、訴外菅井ハルが確認を受けたものである。同項(三)のうち、原告会社がその主張の報酬を支払ったことを否認する。報酬を支払ったのは、訴外菅井ハルである。その余は認める。同項(四)ないし(六)は不知。同項の(七)のうち、被告横山に原告ら主張の注意義務違反があることは否認する。

3 被告横山は、次に述べるとおり、建築確認申請の委任を受けた建築士としてなすべき一切の義務を尽くした。

すなわち、昭和四八年夏、被告横山は、訴外菅井ハルの代理人と称する訴外戸塚太郎から本件建物の建築確認申請手続を依頼され、右戸塚から本件建物及びその敷地に関する簡単な図面を見せられたが、被告横山は、右の土地が第一種住居専用地域内にあることから、建築する建物の高さには、制限があること、北側からの高度斜線制限問題も配慮する必要があることを指摘した。その一、二日後、被告横山は、右戸塚に案内されて現地を確認した。その際右戸塚は附近一帯の本件建物の敷地は、右戸塚の兄弟三人の共有地であるとし、右敷地の範囲について指示説明をしたが、それによると、本件建物の敷地は、少なくとも目測で間口三〇メートル以上、奥行一七、八メートルであった。そこで被告横山は、建ぺい率制限、容積率制限についても問題はないと考え、建築確認申請手続事務を引き受けることを承諾し、右戸塚に対し、建築図面等を持参するよう指示した。その後右戸塚が被告横山に持参した一級建築士渡辺勝作成の設計図面を被告横山において検討した結果、高さ制限と北側からの高度斜線制限に牴触することが判明したので、その旨を右戸塚に告げたところ、右戸塚は、敷地北西側にはカヤの生えた法地幅約二メートルが接しているし、高さについては、建物の高さを敷地より一メートル三〇センチメートル堀り下げて建てるから問題はない旨述べたので、被告横山は、右のとおり、渡辺勝建築士の同意を得て、同建築士作成の設計図面を訂正のうえ、訴外菅井ハル名義で建築確認の申請をし、確認が得られた。右の建築確認を得たのち、被告横山は、昭和四九年一月九日、右戸塚に対し、確認申請どおりの建物を建てるよう注意を与えた。

同項(八)は否認する。

3 請求原因第3項及び同第4項については、認否をしなかった。

4 請求原因第5項のうち、被告横山が、原告ら主張の支払をしないことは認めるが、その余は不知。

5 請求原因第6項の主張は争う。

第三証拠《省略》

理由

第一  まず、本件建物に対する原告らの所有権の存否について検討する。

1  原告会社が本件建物を建築し、同建物のうち(1)の部分を所有していることは、原告らと被告東京都との間において争いがなく、原告らと被告東京電力、同横山との間においては、《証拠省略》によりこれを認めることができる。右認定を左右するに足りる証拠はない。

2  原告蓬田が本件建物(2)ないし(8)の部分につき所有権を有したか否かにつき検討する。

(一)  《証拠省略》を総合すれば、亡秀吉は、昭和四九年六月一八日、原告会社との間に、本件建物(2)ないし(8)の部分及び同建物の敷地の持分八分の七を代金四九〇〇万円で買い受ける契約を締結したことを認めることができる。右認定を左右するに足りる証拠はない。

(二)  そこで、亡秀吉と原告会社間の右売買契約は、両者の通謀虚偽表示によるものとして無効であるとの被告東京都及び同東京電力の主張について判断する。

《証拠省略》を総合すると、次の各事実を認めることができる。

亡秀吉と訴外戸塚太郎(以下「戸塚」という。)は、十数年前から仕事上の知合いであった。右売買契約の当時、亡秀吉は、建築業の仕事をしていたが、宅地建物取引業者の資格を持っていなかった。亡秀吉は、本件建物(2)ないし(8)の部分についての右売買契約締結当時、かなりの老令であり、加えて持病のため治療を受けていた。そして右売買契約を締結した本件建物(2)ないし(8)の部分について、これを転売するための活動を全く行っていなかった。本件建物は、亡秀吉の住居及び営業の本拠である新宿区西大久保から当時一時間以上もかかる遠隔地に所在し、右契約当時は、亡秀吉の従業員で宿舎を必要とする者は、亡秀吉の自宅の裏のアパートに住んでいた。他方、原告会社は、当初本件建物を分譲する計画のもとに建築したものであった。昭和四九年二、三月ごろ以後から、右売買契約締結の当時にかけて、本件建物の建築については、本件事務所長から建築基準法違反を理由として、既に数回にわたる工事停止命令が発せられており、その旨の標識が掲示されるとともに、工事停止の赤紙も建築中の本件建物に貼付されていた。亡秀吉は、このことを知りながら右売買契約を締結し、しかも、本件事務所長に対し、違反是正の問題につき問い合わせたことはなかった。また、本件事務所からの再三、再四にわたる呼出しにも、これに応じて出頭したことがなかった。その後昭和四九年七月二日付けで、亡秀吉名義による電気供給の申込みに関する書面が被告東京電力に提出されたが受け付けられなかった。更に同年八月二日にもハルタマンション名義による東京電力への電気供給申込みがなされたが、承諾を保留され、電気の供給を受けることができなかった(同年八月二日の東京電力に対する電気供給申込みにつき承諾が保留されたことは、原告らと被告東京都、同東京電力との間に争いがない。)。また、水道についても、右同様、供給を受けられない状態であった。しかるに、亡秀吉は、同年八月二〇日、右売買代金の内金四七〇万円を支払いながら、電気の供給が受けられるよう原告会社に善処方を強く要求することもなかった。原告会社は、昭和四九年九月一七日、亡秀吉に無断で、同社名義をもって、本件建物の所有権保存登記をしたが、訴外戸塚は、本件建物に原告会社のため抵当権を設定すべく、亡秀吉の了解を得たと称し、原告会社と亡秀吉間の右了解に伴う念書なるものを亡秀吉に交付し、次いで同年一〇月一二日、同社の債務を担保するためとして、本件建物について、抵当権設定登記を経由した。更に、原告会社は、本件建物の敷地について、同社名義への同年一〇月一二日付け所有権移転登記を経由した。右の念書には「原告会社が同年一〇月一日以降、本件建物の一切の権利を亡秀吉に渡し、登記を委せる。」旨の文言が記載されていたが、その内容については全く実行されないままであった。本件建物は、昭和五〇年二月二五日から同月二七日までの間に、本件事務所長により、建築基準法違反による代執行がなされて本件建物のかなりの部分が除却された(請求原因2(五)及び3(一)のとおり代執行が行われたこと(ただし二階の残存部分の面積の点を除き)は、原告と被告東京都との間に争いがない。)。その結果、本件建物は、構造上、使用不能となった。亡秀吉は、本件建物に対する代執行のなされたことを知りながら、売主である原告会社に対して文句もいわず、その後売買契約解除、代金減額ないし損害賠償の問題も発生せず、また支払った代金四七〇万円も全く返済を受けないまま今日に至った。他方本件建物の敷地については、その後競売が実施されて他人が競落したが、亡秀吉を相続した原告蓬田は、競売が申し立てられたことを知りながら、手をこまぬいて事態を見送り、更に本件建物も完全に取り壊されてそのあとに他人の建物が建てられたが、原告蓬田は、昭和五五年四月一四日の同原告本人尋問において被告代理人から指摘されてはじめてこのことを知った。

右のとおり認められる。右認定を左右するに足りる証拠はない。

右認定の事実によれば、亡秀吉には、本件建物(2)ないし(8)の部分の買受けを必要とすべき事情が存したものとはみられず(もっとも《証拠省略》によれば、亡秀吉は、本件建物(2)ないし(8)の部分を購入して、これを従業員の宿舎とする積りであったというのであるが、前記認定のとおりの本件建物の立地条件のほかその(2)ないし(8)の部分を右の従業員の宿舎とするための具体的な構想等は全く明らかではないから、右の供述はたやすく採用できない。)、また亡秀吉が本件建物(2)ないし(8)の部分の所有権者であって、その転売を志向していたものとみるにしては、自己の権利の帰属についても、当初からすべてを原告会社に依存しているかの如くに窺われるなど、余りにも自己の権利についての関心が稀薄であるとみざるをえないのであって、これらのことを考えると、亡秀吉には、真実本件建物(2)ないし(8)の部分を買い受ける意思もないのに、これあるかのように装って、原告会社と通謀のうえ、仮装の前記売買契約を締結したものと推認するのが相当である。

3  したがって、本件建物の(2)ないし(8)の部分の売買契約は、虚偽表示により無効であり、亡秀吉は、右売買契約によって、本件建物(2)ないし(8)の部分の所有権を取得するものではなく、後記本件代執行の当時その所有権を有していなかったものといわなければならない。

第二  原告らの被告横山に対する請求関係について判断する。

一1  請求原因第2項の(一)ないし(三)の各事実は、委任契約の相手方が原告会社であったか訴外菅井ハルであったか、被告横山が代理して建築確認を申請した本人が原告会社であったか訴外菅井ハルであったか、また右確認をうけたのが原告会社であったのか訴外菅井ハルであったのか、また被告横山に対して報酬を支払ったのが原告会社であったのか、訴外菅井ハルであったのかの各点を除き、原告らと被告横山との間に争いがない。

2  《証拠省略》を総合すれば、原告会社が訴外日本メンテナンスと建築請負契約を締結し、遅くとも昭和四九年八月本件建物はその内装を終え、建築設備をも設けて建築基準法上の建築物となるに至ったことが認められる。右認定を左右するに足りる証拠はない。もっとも本件建物が民法上建物といえる状況となったのは、右の時期よりも早く、《証拠省略》によれば、同年五月一〇日であることが認められる。右認定を左右すべき証拠はない。

3  《証拠省略》によれば、請求原因第2項の(五)の事実(ただし二階の残存部分の面積を除く。)が認められる。右認定を左右するに足りる証拠はない。

二  そこで、被告横山が委任契約上の義務を尽したか否かについて判断する。

《証拠省略》を総合すれば、次の各事実を認めることができる。

すなわち昭和四八年夏、被告横山は、原告会社の代表者菅井ハルと親密な関係があって同人と同居しており、かつ、同社から本件建物の建築工事を請け負っていた訴外日本メンテナンスの代表者で原告会社の取締役を兼ね、原告会社あるいは訴外菅井ハルを代理していた訴外戸塚から、本件建物に関して訴外菅井ハル名義による建築確認申請を委任され、極めて大雑把な図面を手渡された後、訴外戸塚から、本件建物を建築する予定の現地に案内された。その際右戸塚は、被告横山に対し、本件建物の敷地として、かなり広い土地を指し示して、右敷地は、訴外戸塚の兄弟との共有地も含まれているものであり、ここにマンションを建てたいが、できるだけ北へ寄せて貰いたい、と説明した。被告横山は、長年の経験に照らして、これだけ広い土地なら大丈夫だと思った。同被告方における実際の事務処理は、訴外笹渕与志男が行ったが、同人は現地に足を連んだほか、戸塚から交付された各種図面を検討したところ、そのうちの訴外三立ハウス一級建築士渡辺勝が作成し、被告横山方に届けられていた本件建物の設計図によれば、本件建物は、高さ制限と北側高度斜線制限に牴触するおそれがあるとみられたので、戸塚にその旨を告げたところ、西側の土地を親戚から借りることができるから差支えはない旨の返事があり、更に建物の高さについては建物自体を地面線(グランドライン)から下げることとするなど戸塚と何度か電話等で打合わせをし、その意向を十分確かめてこれに従い、確認申請書及び関係書類を作成し、戸塚を介して訴外菅井ハルの押印を受けたうえ、建築確認申請をしたところ、やがて確認が得られた。しかし、実際には、原告会社は、右申請書及び確認された内容どおりの建築を行わなかったため、本件建物は、後記認定のとおり、建築基準法違反の建物となった。

右のとおり認められる。《証拠判断省略》

右認定の事実によれば、被告横山は、委任者が原告会社であれ、訴外菅井ハルであれ、その代理人である戸塚の指示するとおりで、かつ、その希望する内容の建築確認申請手続をとり、その申請どおりの確認を得られたものであるから、委任されたとおりの事務を処理したものであり、右戸塚自身建築施工請負等を業とする訴外日本メンテナンスの代表者であって建築の専門家でもあったこと(この点は《証拠省略》から明らかであって、右認定を左右すべき証拠はない。)をも併わせ考えると、被告横山に委任契約上の義務違反があったものということはできず、本件建物について除却の代執行が行われる結果となったのは、後記のとおり、建築主において、右確認に係る内容と異った内容の、建築基準法違反の建物を、本件事務所長の指示や命令を無視して建築し、これを完成させたことによるものであって、被告横山の委任契約上の義務の履行不履行の問題とは何ら関係のないことといわなければならない。

三  したがって、被告横山の債務不履行ないし不法行為責任をいう、原告らの同被告に対する本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく理由がない。

第三  原告らの被告東京都に対する請求関係について判断する。

一  本件代執行の適法性につき検討する。

1  被告東京都が本件代執行をなしたこと(ただし二階の残存部分の面積を除く。)は、原告らと被告東京都との間に争いがない。

2  そこで、本件建物が建築基準法に違反していたか否かにつき検討する。

《証拠省略》を総合すれば、本件建物の敷地を含む一帯は、いわゆる第一種住居専用地域、かつ、第一種高度地区に指定されていて、それぞれ建築基準法に定める制限が加えられているところ、訴外菅井ハル名義の確認申請書には、建物敷地面積四三七・二三平方メートル、建築面積六六・四七平方メートル、建築物の延面積二一七・二平方メートルとそれぞれ記載されており、その旨の確認がなされたものであるが、本件建物の敷地とされている東京都東村山市野口町三丁目二〇番一六宅地一二九・一六平方メートル(以下「一六の土地」という。)、同所同番一七宅地一六四・三平方メートル(以下「一七の土地」という。)、同所同番一八畑一六四平方メートル(以下「一八の土地」という。)のうち、一六と一七の土地は、昭和四八年五月三一日付で訴外武蔵力蔵に所有名義が移転されており、一八の土地だけが訴外菅井ハルの所有地であったが、一六、一七の土地と一八の土地とは生垣により区切られており、しかも原告会社にも菅井ハルにも右一六、一七の土地を使用する権限はなかったので、右菅井ハルが、本件建物の敷地として実際に使用できるのは、一八の土地のみであり、また、右確認申請書及びその添付図面によれば、本件建物は共同住宅でしかも床面積の合計は二一七・二〇平方メートルであるが、その北端から真北方向に、隣地境界線までの距離は八・七五メートルと表示されており、東京都建築安全条例一九条二号に定めるいわゆる窓先空地は、幅員一〇メートルにわたって存在しているように表示されているが、実際は、本件建物の北端から真北方向に隣地境界線までの距離は二・七メートルであり、いわゆる窓先空地は一・六五メートルの幅をもって設けられているにすぎず、更に本件建物の北端から隣地境界線までの真北方向の水平距離は二・七メートルであるから、建築物の北端における高さは、六・六二メートル以下でなければならないのに、本件建物の高さは、すべての部分において一〇・六メートルであったので、結局建築基準法五三条一項の建ぺい率の制限三〇パーセントに違反するとともに同法五二条一項の容積率制限六〇パーセントにも違反し、更に第一種高度地区内の建築物の各部分の高さ制限を定めた同法五八条に違反するとともに同法五五条一項の絶対高さ制限一〇メートルに違反し、なお東京都安全条例一九条二号の窓先空地巾員二メートルにも違反していたものであることが認められる。右認定を左右するに足りる証拠はない。

右認定の事実によれば、前記認定の建築確認と付合するかどうかの点を別としても、現実すなわち実体の問題として、本件建物が建築基準法に違反するいわゆる違法建築物であったことは明らかというべく、本件建物については、このような同法違反のものとして、本件代執行の前提条件を具備していることが認められ、右条件の不存在を理由として、本件代執行の違法をいう原告らの主張は理由がない。

3  次に本件代執行の手続違反の有無について判断する。

(一) 原告会社から亡秀吉に本件建物(2)ないし(8)の部分の所有権が移転したことがなく、本件代執行当時原告会社が本件建物の所有権者であったことは前記第一で認定したとおりであり、本件事務所長が建築基準法に基づく是正命令を原告会社に対し行い、行政代執行法三条一項に基づく戒告並びに代執行令書による代執行の通知を原告会社に対してなしたこととは、原告らと被告東京都の間において争いがない。したがって、本件事務所長が亡秀吉に対し右の手続をとらなかったとしても、亡秀吉は本件代執行当時、本件建物(2)ないし(8)の部分につき所有権を有しないのであるから、本件代執行が、亡秀吉に対する関係において、手続違反の問題を生ずる余地はない。

(二) 更に、亡秀吉が本件建物(2)ないし(8)の部分の所有権を有効に取得していたものと仮定して考えてみても、本件代執行の違法を理由とする原告蓬田の被告東京都に対する損害賠償の請求は、次のとおり理由がない。

すなわち、《証拠省略》によれば、次の各事実を認めることができる。

(1) 本件建物の建築主は、昭和四九年一月の確認申請当時、訴外菅井ハル名義とされていたが、昭和四九年五月ごろに、原告会社が東京都建築審査会に対して工事の停止命令の取消しを求める審査請求をした際の本件建物の建築主は、右の訴外菅井ハルではなく、原告会社自身とされており、その後も同年九月一七日、本件建物の保存登記が原告会社名義でなされていたため、本件事務所長は、本件建物の建築主及び所有者は原告会社であると判断した。

(2) 昭和四九年七月一〇日ごろ、本件事務所長は、被告東京電力多摩支店東村山営業所長からの連絡により、亡秀吉が同社に対し電気供給の申出をしたことを知ったので、亡秀吉が本件建物に対していかなる関係ないし権利を有するものかを検討するため、亡秀吉と接触を試みることとし、本件事務所にその出頭方を要請したが、亡秀吉は出頭して来なかった。そこで本件事務所長において亡秀吉に対し、電話をしたところ、亡秀吉は、「本件建物の件については、息子の原告蓬田にまかせており自分はよくわからない」旨返答したため、本件事務所長は、更に原告蓬田から事情を聞くこととし、同原告に対して、本件事務所への出頭を要請したけれども、全くなしのつぶてであった。しかし、他方で本件事務所長において本件建物の登記簿謄本をみると、本件建物は、昭和四九年九月一七日付けで原告会社の所有である旨の登記が経由されていた。

(3) 次いで同年一一月一日、本件事務所長は、亡秀吉が債権者となり、被告東京電力を債務者として電力供給仮処分を申請したことを、被告東京電力からの連絡によって知り、その際同被告から原告会社と亡秀吉間の本件建物に関する売買契約書なるものの写しを入手して検討したところ、亡秀吉が本件建物(2)ないし(8)の部分を原告会社から買い受ける契約をしたこととなっていたので、再度登記所において本件建物の登記簿を閲覧してみたが、やはりその登記名義は原告会社であったので、詳しい事情を関係者である亡秀吉及び原告会社から聞くこととした。

(4) しかし、本件事務所長は、亡秀吉からは、同人が売買により、本件建物の所有権を取得した旨の明確な返答を得られず、また、原告会社からも、右の点に関する明確な返答はなかった。その後本件事務所長は、昭和五〇年一月二三日ごろ、代執行の戒告に当たって、登記簿を閲覧したが、やはり本件建物の登記簿上の所有者は原告会社であった。更に、代執行令書による通知をした昭和五〇年二月二〇日ごろに登記簿を閲覧しても変化はなかった。そこで本件事務所長は、右のような登記簿の記載を重視し、本件建物の所有者は、原告会社である、と最終的に判断したうえ、本件代執行の手続きを行うこととしたが、同年同月二二日付けで亡秀吉名義による同月二一日付けの内容証明郵便が到達した。右文書には、本件建物は、亡秀吉が、原告会社から「昭和四八年六月一八日」に買い受け、同年一〇月一日所有権の移転及び引渡しを受け、現在所有及び占有中である旨の記載があったので、本件事務所長は、重ねて念の為、登記簿を閲覧してみたが、本件建物の所有名義は、この段階でも原告会社のままであった。また、この時点になっても、亡秀吉との直接、かつ、現実の接触はなく、亡秀吉が本件事務所に自身出頭して何らかの説明をすることもなかった。

右のとおり認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

右事実によれば、本件事務所長は、本件建物(2)ないし(8)の部分の所有者が誰であるかにつき、登記簿を調査し、その所有名義が原告会社である旨を知ったうえ、なお、前記認定に係る諸事情をも勘案して右登記の推定をくつがえすに足りる事情が認定できないとしたものであり、登記簿の記載を信頼してなされた本件代執行が仮に亡秀吉の所有権を侵害する結果を惹起したとすれば、その点において違法であるにもせよ、本件事務所長に故意はもちろん過失があったものとすることもできず、他に右の点を肯認するに足りる証拠はないから、亡秀吉において本件建物(2)ないし(8)の部分につき所有権を有していたとしても、この点を理由として、本件代執行の違法をいう原告蓬田の主張は失当である。

4  本件代執行の実体的要件欠缺の有無につき判断する。

原告らは、本件代執行は、行政代執行法二条のいわゆる実体的要件を充足していない旨主張する。原告らの右主張は、本件代執行は行政代執行法上の代執行であるとして、同法二条の各実体的要件に該当するか否かの具体的判断が必要であるというのである。

しかしながら、《証拠省略》によれば、本件代執行は建築基準法九条一二項に基づき行われた建築基準法上の代執行であることが認められ、右認定を左右すべき証拠はない。

ところで、建築基準法九条一二項の規定は、昭和四五年法律第一〇九条による同法の改正で設けられた規定であるが、その立法趣旨は、従来においては、違反建築物の是正のための代執行を行うについては、行政代執行法二条の要件が充足されているか否かについての極めて慎重な判断が行政庁に要求せられており、それが、実際上行政庁において代執行の手続をとるうえでのかなりの制約をなしていたので、違反建築物の取締を強化する観点から、代執行の要件を明確にし、かつ、緩和するにあるものというべきである。したがって、建築基準法九条一二項は行政代執行法二条の特別規定であると解される。そうすると、建築基準法九条一二項に基づく同法上の代執行である本件代執行については、実体的要件に関する行政代執行法二条の規定は適用されないものと解すべきであるから、同法二条の適用があることを前提とする原告らの主張は、その余の点を考えるまでもなく失当である。

5  以上によれば、本件代執行は、その要件を具備するものとして有効であり、原告ら主張に係る違法は存在しないから、右違法を理由とする原告らの被告東京都に対する損害賠償の請求は、その余の点について判断するまでもなく理由がない。

二  被告東京都の被告東京電力に対する電気供給保留要請の違法性の有無につき検討する。

1  被告東京都が、被告東京電力に対し電気供給承諾の保留を要請したことは、原告らと被告東京都の間に争いがない。

2  そこで右承諾保留要請が違法であるか否かにつき判断する。《証拠省略》によれば、本件事務所長は、昭和四六年一月二九日付建設省住指発第四二号をもって建設省住宅局長から東京都知事宛に発せられた「違反建築物に対する電気等の供給保留について」と題する通達に従って、本件建物に対する電気の利用申込みの承諾を保留するよう被告東京電力に要請したことが認められる。右認定を左右すべき証拠はない。ところで、右の東京都知事宛住宅局長通達は、その内容からみて、地方自治法別表第三(一二一)に関し、上級行政庁である建設大臣が下級行政庁である東京都知事を指揮監督するために発した命令にほかならないというべきであるから、それが重大かつ明白に違法なものとして、無効とされる場合でない限り、東京都知事及びその下部機関である本件事務所長は、右通達の拘束を受けるものというべきところ、右の東京都知事宛建設省住宅局長通達が、重大かつ明白に違法なものとして無効であることの特段の資料はなく、むしろ有効であることは後記のところから明らかであるから、東京都知事及び本件事務所長は、右通達の拘束を受けるものである。したがって、本件事務所長が、右通達により、被告東京電力に対し、承諾保留の要請をしたことは、何ら違法ではないから、右承諾保留の要請が違法であることを前提とする原告らの被告東京都に対する本訴請求も、その余の点を考えるまでもなく理由がない。

三  以上によれば、原告らの被告東京都に対する本訴国家賠償法による請求は、その余の点につき判断するまでもなく理由がない。

第四  原告らの被告東京電力に対する請求関係について判断する。

一  需要家からの電気供給申込みにより、被告東京電力の承諾をまたず当然に、右の申込者と被告東京電力間に電気の需給契約が成立するか否かにつき検討する。

電気事業法一八条一項が一般電気事業者の供給義務について定めていること、電気供給規程が附合約款であることは原告らと被告東京電力との間に争いがないところ、《証拠省略》によれば、電気の供給は、電気需給契約という私法上の契約を締結することによって行われるが、右契約は需要家が電気供給規程を承認のうえ申し込み、電気事業者がこれを承諾することによって成立するものであることが認められ、右認定を左右すべき証拠はない。ところで一般電気事業者は、電気事業法一八条一項に定める「正当な理由」がないのにかかわらず、需要家の申込みに対して承諾をせず、よって電気の供給をしなければ、同法一一七条によって制裁を受けることとなるが、右の承諾をしなかったからといって、右の制裁を伴うことは別として、当該需要家と当該一般電気事業者との間において申込みに対する承諾が擬制されることによる契約の成立をみるものではないと解するのが相当である。したがって、正当な理由がない場合においては、原告らの申込みにより当然に電気需要契約が成立するとの原告らの主張は、理由がない。

二  被告東京電力が、本件事務所長からの電気供給保留の要請を受けたことに基づいて、本件建物への電気供給の申込みに対し承諾を保留したことは、原告らと被告東京電力との間に争いがなく、その根拠が電気事業法一八条一項の「正当な理由」のある場合、電気供給規程43の「やむをえない場合」に該当すると判断したことによるものであること同被告が、本件建物につき、原告らに対し電気の供給をしていないことは、同被告の自陳するところである。

1  電気事業法一八条一項は、「一般電気事業者は、正当な理由がなければ、その供給区域における一般の需要に応ずる電気の供給を拒んではならない。」と規定しているが、いかなる場合が右の「正当な理由」の存する場合であるかについての規定を欠いている。しかし、水道法においては、給水を停止し得る場合が定められており(水道法一五条二項、三項、一六条)、それによると、供給することが不可抗力や物理的に不可能な場合、及び供給を受ける側に供給契約関係の基礎を失わしめるような帰責事由が存する場合を停止理由としていることがうかがえる。電気の場合と水道の場合とを全く同列において考えうるかどうかについては、多少議論の余地があるかも知れないが、ここでは、一応水道法の右の規定を参考に考えてみることとする。本件は、初めて供給を開始する場合の問題であるから、契約関係の基礎を破壊するようなことはまだ発生していないので、右に挙げた事由の中では、物理的に供給しえないような場合のみが考えられるべきこととなろう。しかし、水道法には右のような規定がある反面、一五条二項、三項、一六条に規定する場合を除いて給水を拒否しえない、とも規定していないから、電気事業法の「正当な理由」を、水道法の右各条が掲げる場合に限定しなければならない必然性は、右両法の文理上は存しないものということができる。また、これを実質的に考えてみても、それが我が国における全法律的秩序の精神にかんがみて妥当ではないと考えられる場合は別として、そうでない限りは、法律は一般に他の法令との整合性、調和性及び他の法令の目的との関係を考慮に入れて解釈することを必ずしも妨げられるものではない、と解することが、むしろ法の窮局の原理に合致するところともいえよう。

これを本件についてみるに、建築基準法と電気事業法の趣旨、目的がそれぞれ異ることは否定できないから、電気事業法の趣旨、目的のみに従って「正当な理由」の存否を判断すべきであるとの考え方に立つ限り、ある建築物が、建築基準法に違反しているからといって、これと法律の体系を異にする電気事業法上の特別の根拠なしに、右違反の存するがゆえに、この存する場合を電気の供給を拒む正当な理由のある場合とすることはできないというのも一理なしとしないところである。しかし、さきに述べた観点からすれば、電気事業法一八条一項の「正当な理由」の有無を、同法一条の趣旨、目的だけから解釈すべき必然性は必ずしも存しないということになる。かように考えれば、例えば鉄道営業法六条三号、通運業法一七条は、公序良俗違反の場合をも拒否の正当理由に挙げているが、電気事業法一八条一項の場合においても、これを右の「正当な理由」のある場合の一態様とみることをさまたげないものということができる。

ところで、建築基準法上の違法建築物すなわち同法又は同法に基づく命令若しくは条例の規定に違反した建築物の範囲は、社会経済事情の変動とともに変動をまぬがれないものであるにもせよ、少くとも同法が右にいう違法建築物の発生及びその存続を規制、抑制することにより、その第一条に定める目的を達成しようとしていることは同法の各規定全体からみて明らかであり、右のいわゆる違法建築物が、安全、平穏、快適であるべき現代の都市生活における秩序と平和を破壊するおそれがあるものとして、都市住民の健康で文化的な生活の営為と両立しがたい存在であることは多言を要しないところである。と同時に、現代都市における建築物は、電気、ガス等のエネルギーの普段の供給をうけてこそその本来の機能を十分に発揮できるものであることを考えると、かかる違法建築物に対し、現代の都市生活に不可欠のエネルギーの一つである電気を、無条件、かつ、安定的に供給するのは右のような違法建築物の発生、存続を助長するおそれのあることであるといえなくはない。したがって、かかる違法建築物に対する電気の供給それ自体が、一定の場合には、公序良俗に違反する色彩を帯びることとされ、かかる場合における違法建築物に対する電気供給の拒否を、正当な理由のある場合の供給拒否とすることは、十分理由のあることというべきである。

ところで《証拠省略》によれば、被告東京電力の電気供給規程に、右の「正当な理由」のある場合を個別具体的に明らかにするに足りる規定が存するものとみることは困難であって、ただ、その「43承諾の限界」の前段には、「当社は、法令、電気の需給状況、供給設備の状況その他によってやむをえない場合には、通商産業大臣の承認を受けて使用の申込みまたは需給契約の変更の申込みの全部または一部をお断りすることがあります。」との定めがあり、右の「やむをえない場合」についての例示の冒頭に、「法令」を挙示しているところからみると、右の定めは、ただ単に電気の需給状況、供給設備の状況あるいはこれに類似した状況のある場合にとどまらず、むしろ我が国における法律秩序全体の観点から「やむをえない」とされる場合のあることをも予想しているものとみられないではない。

したがって、電気事業法一八条一項における「正当な理由」について右に説示したところは、被告東京電力の「やむをえない場合」の解釈についても、基本的には、何ら異るところなく妥当するものというべきである。

2  もっとも、電気は、水道と対比すれば、多少異るところがあるにもせよ、ガスと並んで、現代の都市における健康で文化的な生活を享受するうえでの必要不可欠なエネルギーであるうえ、その供給者が事実上特定の一般電気事業者に限定されているところからすれば、右電気事業者の承諾保留に「正当な理由」があるか否かを考えるに当たっては、右の承諾保留によって、電気の供給を受けられなくなる者が事実上被る不利益を全く無視することも相当ではないのであって、建築基準法違反のいわゆる違法建築物に対して電気の供給をしないことを正当とするかどうかを考えるに当たっても、当該建築物が右の違法建築物であるとの一事だけから、この建築物に対し、それ自体あるいはその周辺の一切の個別事情を捨象したうえ、一律に電気の供給を拒否することには、現実問題として、慎重な考慮が必要であろう。そして、この場合、電気の供給をしないことを決する時点での、当該違反の種類、態様、程度、違法建築物の完成の度合、右建物における電気需要の程度、態様、及び電気の供給を受けられないことのため、建築主、工事施行者、居住者等が被りあるいは被るものと予想される不利益の具体的内容、程度、更には、右の者らが、右の事態によってできるだけ損害を被ることがないよう配慮ないし措置されているか否か等、諸般の事情を総合的に勘案したうえで、これを決する態度が望ましいことはいうまでもない。

3  ところで、《証拠省略》によれば、東京通商産業局長は、被告東京電力社長あての昭和四六年三月一五日付け「都市計画法または建築基準法違反の土地または建物に係る電気の供給承諾の保留について」と題する通知により、「都市計画法の運用に係る電気事業者およびガス事業者の協力について」と題する通達及び「建築基準法の運用に係る電気事業者およびガス事業者の協力について」と題する通達に基づく供給承諾の保留については、被告東京電力の電気供給規程「承諾の限界」の通商産業大臣の承認を包括的に行ったものとし、個別に承認を受けることは必要ないものとされた旨を被告東京電力に通知していることがそれぞれ認められ、右各認定を左右するに足りる証拠はない。

そしてまた、《証拠省略》によれば、通商産業省公益事業局長は、昭和四六年一月二九日付けの「建築基準法の運用に係る電気事業者およびガス事業者の協力について」と題する通達をもって、通商産業局長あてに「建築基準法の運用に係る電気事業者およびガス事業者の協力について

上記の件について、別添写しのとおり電気事業者およびガス事業者に要請しましたので、下記の点に留意のうえその運用に遺漏のないよう指導して下さい。

1 貴局管内のガス事業者のうち社団法人日本ガス協会および社団法人日本簡易ガス協会に加盟していないものについては、貴局から周知徹底して下さい。

2 建設省からは、各特定行政庁(別添1参照)あてに別添2のとおり通達がされています。

3 特定行政庁は、ブロックごとに本件に関する連絡会を開くことになっていますが、特定行政庁から要請があれば関係官を出席させるよう配慮して下さい。

4 本通達に基づいて実施される供給承諾の保留については、電気事業法第一八条第一項およびガス事業法第一六条第一項の「正当な理由」があるものと解します。また、新電気供給規程を実施している電気事業者およびガス供給規程上ガスの申込みに対する承諾の全部または一部をしないことができる場合として通商産業局長の承諾または指示に係らしめているガス事業者に対しては、本件の承諾の保留および先に四四公局第五九六号をもって通達した都市計画法関係の承諾の保留について、包括的に承認を与え、または指示をして下さい。」

と行政指導方を通達し、他方同日付けの「建築基準法の運用に係る電気事業者およびガス事業者の協力について」と題する文書をもって電気事業者およびガス事業者に対し、「建築基準法(昭和二五年法律第二〇一号。これに基づく命令および条例を含む。以下同じ。)の規定に違反する建築物について、電気またはガスの供給の申込みの承諾を保留するよう特定行政庁(別添1参照)から要請があった場合において、下記の要件のすべてに該当するときは、これに協力されるようお願いします。

なお、通商産業省と建設省とは、この通達の運用に関する連絡協議会を設け、その運用の円滑化を図っており、建設省からは、各特定行政庁あてに別添2のとおり通達が出されているので、これもあわせてご了知のうえ、細部にわたる手続事項等については、関係特定行政庁と協議を行なうようにして下さい。

(1) 特定行政庁または建築監視員が当該建築物について建築主等に対し建築基準法第九条に規定する工事の施工の停止または当該建築物の除却、移転もしくは使用禁止を命じ、かつ、電気またはガスの利用の申込みの承諾を保留するよう電気事業者またはガス事業者に要請している旨を電気またはガスの使用の申込みの承諾前に当該建築物の建築主および工事施行者に対して確実な方法により通知していること。

(2) 特定行政庁が電気またはガスの使用の申込みの承諾前に当該建築物が建築基準法の規定に違反しているため、当該申込みの承諾を保留するよう電気事業者またはガス事業者に公文書により理由を附して要請していること。

(3) 当該建築物が建築基準法の規定に違反しているため、特定行政庁が電気またはガスの使用の申込みの承諾を保留するよう電気事業者またはガス事業者に要請している旨を当該建築物の見易い箇所に掲示してあること。

(4) 電気事業者またはガス事業者が特定行政庁の要請を受けた時点において、当該建築物が現に居住の用に供されていないこと。」

と要請したが、右通達中においても、通商産業省公益事業局長が、「本通達に基づいて実施される供給承諾の保留については、電気事業法第一八条第一項およびガス事業法第一六条第一項の「正当な理由」があるものと解します。」との行政解釈を示していることが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

一方《証拠省略》によれば、通商産業省公益事業局長と建設省住宅局長は、通商産業省公益事業局長において前記の通達及び要請をし、また、建設省住宅局長が東京都知事あての前記「違反建築物に対する電気等の供給保留について」と題する通達をするに際して、昭和四四年四月一四日付けで覚書(44公局第一五三号、建設省住指発第一三〇号)を取り交わし、通商産業省は、特定行政庁の電気事業者またはガス事業者に対する要請が右覚書に掲げられている四つの要件(前記要請における記の(1)から(4)までの要件と同じ。)のすべてに該当する場合は、建築基準法に違反する建築物について電気事業者及びガス事業者が電気及びガスの使用の申込みの承諾を保留するよう措置するものとする旨を双互に了解したものであることが認められ、右認定を左右すべき証拠はない。

4 さて、弁論の全趣旨によれば、被告東京電力が本件建物に対する電気供給申込みについて承諾を保留したことの具体的な根拠は、前記通達及び要請に掲げられた四要件が満たされていたとすることによるものであることが明らかである。そこで前記の四要件の内容についてみるに、承諾保留の措置がとられる対象については、違反について一応監督官庁の公的認定がなされている建築物に限られており、一般需要者に対する配慮については、電気事業者に承諾保留を要請している旨を建築主及び工事施工者に対し確実な方法により通知することとなっており、第三者に対する配慮としては、承諾保留要請している旨を当該建築物の見やすい個所に掲示して電気供給停止のおそれを周知させており、更に善意の居住者に対する配慮として、保留要請当時、すでに居住者が存在する場合には、承諾を保留しないこととして、それぞれ相当な配慮が払われていることがうかがえる。

右によれば、関係行政当局は、いわゆる違法建築物の発生、存続の規制、抑制のため、これに対する電気供給の承諾保留につき、多角的な観点からの考察と配慮を加えたうえで、その具体的実施をはかることとしたものであって、かかる措置及びその措置の内容は、前記説示に照らし、何ら違法とはいえないばかりか、むしろ一応は妥当なところと評価すべきものである。

5 以上の諸点を念頭において、まず本件建物の場合をみるに、本件建物には、前記認定の建築基準法違反等があるところ、《証拠省略》を総合すれば、本件建物は、鉄筋コンクリート造地上四階建全八戸のいわゆる分譲マンションとして、原告会社により建築され一応完成したが、未だ分譲されるには至っていなかったものであること、本件事務所長は、昭和四九年三月三〇日、建築主である訴外菅井ハル及び訴外本件日本メンテナンスの下請として工事の施行に当たっていた訴外株式会社岡安工務店に対し工事の施工停止を命じたが、右の工事停止命令は無視され、次いで右岡安工務店が工事から退いたあと、工事を引き継いで続行していた訴外日本メンテナンスに対しても同年六月一八日付けで工事の施工停止が命じられたが、これも無視のうえ更に工事が強行され、遂に本件建物の完成を見たこと、本件事務所長は、本件建物が完成されたことを知り、かつ、本件建物の所有者が訴外菅井ハルから原告会社に変更したものと判断して、昭和四九年一一月二九日には、原告会社に対して、建築基準法九条一項に基づき、本件建物につきその違反部分を除却すべき旨の是正命令を発したが、是正の意思が全くみられなかったので、行政代執行によって違反部分を強制的に除却するもやむをえないと判断し、本件代執行がなされたことが認められる。右認定を左右するに足りる証拠はない。次に《証拠省略》によれば、本件事務所長は、昭和四九年五月二九日から同年八月一日までの間六回にわたり、建築現場の本件建物東側面に工事停止命令の公告標識を掲示し赤紙を貼付したが、同年五月二九日には、建築主菅井ハルの代理人であり、原告会社の取締役と工事施工者訴外日本メンテナンスの代表取締役を兼ねるとともに当時本件建物から徒歩五分程の位置にある右菅井ハル方に親密な関係をもって同居していた戸塚に対し、電気の利用の申込みの承諾を保留するよう電気事業者に要請している旨を口頭で伝えたこと、右公告標識には電気等の申込みの承諾保留を電気事業者等に要請してある旨の記載があること、そのころ戸塚は何度か本件建物の工事現場を訪れて右の公告標識をみていること、本件事務所長はその後同年八月二二日にも、菅井ハルに対し文書で、水道、電気の供給の承諾保留の要請をしている旨重ねて通知したこと、以上の事実が認められ(る。)《証拠判断省略》また、《証拠省略》によれば、本件事務所長は、被告東京電力東村山営業所長に対し昭和四九年五月二九日付けの電気供給の承諾保留の要請通知書により、理由を附してこれを要請した後も、同年一一月二九日付、昭和五〇年一月二七日付の各要請通知書をもって三回にわたり、理由を附して承諾保留の要請を繰り返したことが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はなく、更に《証拠省略》によれば、本件事務所の田家係長は、承諾保留の要請がなされた昭和四九年五月二九日の時点において、本件建物が現に居住の用に供されているか否かを調査したこと、その当時本件建物は工事中であったので、廊下あるいは部屋の内部を見たところ、部屋の内部には内装、外装工事に伴う建築資材が散乱しており、とても人が居住できる状態ではなく、人が居住している形跡も認められず、また、当時、水道及び電力の供給が留保されており、居住しうる状況ではなかったこと、昭和四九年八月中旬と九月中旬の二回、田家係長は本件建物に人が出入りしたり、居住しているか否かを確認するため、本件建物の隣のマンションの居住者に尋ねたところ、本件建物には人が出入りした形跡は全くみられないとの返答を得たこと、その後今日まで本件建物は、人の住居に供されたことがないこと、以上の事実が認められ(る。)《証拠判断省略》 右認定の各事実によれば、本件事務所長が昭和四九年五月二九日承諾保留の要請をした時点から今日まで本件建物は居住の用に供されることがなかったものというべきである。もっとも《証拠省略》によれば、戸塚が、本件代執行ごろの時点において、本件建物の一階一〇一号室に寝具類を持ち込んで寝泊りをしていたことが認められるが、右戸塚の本件建物での右の寝泊りは、右の各証拠によれば、家具その他の生活資材を伴わない文字どおり寝泊りだけの臨時的なものであって、右建物を恒常的な生活の場所としていたわけではなく、食事、洗濯等は、本件建物から徒歩約五分の距離にある訴外菅井ハルの家で行うなど、生活の本拠を右の訴外菅井ハルの家に置いていたことが認められる(《証拠判断省略》)から、右戸塚の寝泊りのゆえに、右戸塚が本件建物の一部に居住していたものということはできない。

6 前記説示に照らし、以上認定の事実関係についてみると、被告東京電力の承諾保留は、前記の要件に該当する場合のものであったが、右四要件への該当性を別としても、本件事務所長の要請に基づいてなされた被告東京電力の右承諾保留は、前記電気事業法一八条一項の「正当な理由」のある場合、及び被告東京電力の電気供給規程43の「やむをえない場合」になされたものというに妨げないから、同被告の右承諾保留は適法なものというべく、これを違法であるとする原告らの主張は理由がない。

三  以上によれば、被告東京電力の債務不履行を理由とする、原告らの同被告に対する本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく理由がない。

第五  結論

以上の次第であって、原告らの本訴請求は、すべて理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき、民訴法八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 仙田富士夫 裁判官日野忠和は転補のため、裁判官髙部眞規子は職務代行を解かれたため、いずれも署名押印することができない。裁判長裁判官 仙田富士夫)

〈以下省略〉

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